🪻【源氏物語362 第13帖 明石24】源氏は宮中での音楽の催しのことを思い出していた。愁《うれ》いを感じながら弾く音楽は凄いものであった
〜源氏自身も心に、
おりおりの宮中の音楽の催し、
その時のだれの琴、だれの笛、
歌手を勤めた人の歌いぶり、
いろいろ時々につけて自身の芸のもてはやされたこと、
帝をはじめとして音楽の天才として
周囲から自身に尊敬の寄せられたことなどについての追憶が
こもごも起こってきて、
今日は見がたい他の人も、
不運な自身の今も深く思えば夢のような気ばかりがして、
深刻な愁《うれ》いを感じながら弾いているのであったから、
すごい音楽といってよいものであった。
🪻【源氏物語363 第13帖 明石25】明石入道は山手の家から琵琶と事を取り寄せて琵琶を弾いた。源氏は十三弦を弾いた。その音に入道は敬服した。
〜老人は涙を流しながら、
山手の家から琵琶と十三|絃《げん》の琴を取り寄せて、
入道は琵琶法師然とした姿で、
おもしろくて珍しい手を一つ二つ弾いた。
十三絃を源氏の前に置くと源氏はそれも少し弾いた。
また入道は敬服してしまった。
あまり上手がする音楽でなくても
場所場所で感じ深く思われることの多いものであるから、
これははるかに広い月夜の海を前にして
春秋の花 紅葉の盛りに劣らない
いろいろの木の若葉がそこここに盛り上がっていて、
そのまた陰影の地に落ちたところなどに
水鶏《くいな》が戸をたたく音に似た声で鳴いているのも
おもしろい庭も控えたこうした所で、
優秀な楽器に対していることに源氏は興味を覚えて、
「この十三絃という物は、
女が柔らかみをもってあまり定《き》まらないふうに弾いたのが、
おもしろくていいのです」
などと言っていた。
🪻【源氏物語364 第13帖 明石26】明石入道は、延喜の聖帝から伝わった3代目の芸を継いだ者であるが娘が聞き覚えた。ぜひお聞き入れたいと源氏に言う。
〜源氏の意はただおおまかに女ということであったが、
入道は訳もなくうれしい言葉を聞きつけたように、
笑みながら言う、
「あなた様があそばす以上におもしろい音《ね》を出しうるものが
どこにございましょう。
私は延喜《えんぎ》の聖帝から伝わりまして
三代目の芸を継いだ者でございますが、
不運な私は俗界のこととともに音楽もいったんは
捨ててしまったのでございましたが、
憂鬱な気分になっております時などに時々弾いておりますのを、
聞き覚えて弾きます子供が、
どうしたのでございますか私の祖父の親王によく似た音を出します。
それは法師の僻耳《ひがみみ》で、
松風の音をそう感じているのかもしれませんが、
一度お聞きに入れたいものでございます」
興奮して慄《ふる》えている入道は涙もこぼしているようである。
「松風が邪魔《じゃま》をしそうな所で、
よくそんなにお稽古ができたものですね、
うらやましいことですよ」
源氏は琴を前へ押しやりながらまた言葉を続けた。
🪻【源氏物語365 第13帖 明石27】明石入道が娘の琴の音をお聞き入れたいとの事に対して、源氏は、お嬢さんのを聞かせていただきたいと言う。
〜不思議に昔から十三絃の琴には女の名手が多いようです。
嵯峨《さが》帝のお伝えで女五《にょご》の宮《みや》が
名人でおありになったそうですが、
その芸の系統は取り立てて続いていると思われる人が見受けられない。
現在の上手というのは、
ただちょっとその場きりな巧みさだけしかないようですが、
ほんとうの上手がこんな所に隠されているとは
おもしろいことですね。
ぜひお嬢さんのを聞かせていただきたいものです」
🪻【源氏物語366 第13帖 明石28】明石の君は、品よく美しく琵琶を弾きこなす。源氏に娘のことをいろいろ語る明石入道
〜「お聞きくださいますのに
何の御遠慮もいることではございません。
おそばへお召しになりましても済むことでございます。
潯陽江《じんようこう》では商人のためにも
名曲をかなでる人があったのでございますから。
そのまた琵琶と申す物はやっかいなものでございまして、
昔にも
あまり琵琶の名人という者はなかったようでございますが、
これも宅の娘はかなりすらすらと弾きこなします。
品のよい手筋が見えるのでございます。
どうしてその域に達しましたか。
娘のそうした芸を
ただ荒い波の音が合奏してくるばかりの所へ置きますことは
私として悲しいことに違いございませんが、
不快なことのあったりいたします節にはそれを聞いて
心の慰めにいたすこともございます」
🪻【源氏物語367 第13帖 明石29】明石入道は十三弦を弾く。弾く指の運に唐風が多く混じっている。源氏も拍子を取り声も添える。入道は身の上話をする。
〜音楽通の自信があるような入道の言葉を、
源氏はおもしろく思って、
今度は十三絃を入道に与えて弾かせた。
実際 入道は玄人《くろうと》らしく弾く。
現代では聞けないような手も出てきた。
弾く指の運びに唐風が多く混じっているのである。
左手でおさえて出す音などはことに深く出される。
ここは伊勢《いせ》の海ではないが
「清き渚《なぎさ》に貝や拾はん」
という催馬楽《さいばら》を美音の者に歌わせて、
源氏自身も時々拍子を取り、
声を添えることがあると、
入道は琴を弾きながらそれをほめていた。
珍しいふうに作られた菓子も席上に出て、
人々には酒も勧められるのであったから、
だれの旅愁も今夜は紛れてしまいそうであった。
夜がふけて浜の風が涼しくなった。
落ちようとする月が明るくなって、また静かな時に、
入道は過去から現在までの身の上話をしだした。
明石へ来たころに苦労のあったこと、
出家を遂げた経路などを語る。
娘のことも問わず語りにする。
源氏はおかしくもあるが、
さすがに身にしむ節《ふし》もあるのであった。
🌺【源氏物語 13帖 明石〈あかし〉】
https://syounagon.hatenablog.com/entry/2023/07/09/191408
🌺【源氏物語 インデックス】
https://syounagon.hatenablog.com/entry/2024/03/30/093701
🌺少納言のホームページ 源氏物語&古典 少納言の部屋 ぜひご覧ください🪷
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