2025-01-01から1年間の記事一覧
京に帰ったあと、文覚は高雄の山奥で修行した。 この山には神護寺《じんごじ》という山寺があったが、 久しい間誰も修繕しなかったので荒れるままに放置されている。 春は霞に立ちこめられ、秋は霧の中に捨ておかれ、 傷みきった寺の扉は風に吹き倒された。 …
【平家物語 第5巻 大庭〈おおば〉が早馬】 治承四年九月二日、相模国の住人大庭三郎 景親《かげちか》が、 福原へ差し向けた早馬のもたらした報告は、新都を着々建設して、 平家独裁の政府を樹立し一門繁栄の夢をむさぼろうとした平家にとって、 驚くべき報…
まだ除夜の鐘には、すこし間がある。 とまれ、今年も大晦日《おおつごもり》まで無事に暮れた。 だが、あしたからの来る年は。 洛中の耳も、大極殿《だいごくでん》のたたずまいも、 やがての鐘を、 偉大な予言者の声にでも触《ふ》れるように、 霜白々と、…